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written in 8 Feb.2003
あなたが誰の手にも届かないところに行ってしまって、もう数日経ちました。こんな事実は受け入れたくないという気持ちもある反面、ほんのわずかさえも奇跡を願おうとしなかった自分がいる事に、僕は少しばかり驚いています。憧れのあなたが逝ってしまったというのに。
あなたの事を初めて知ったのは、僕がまだ小学生の頃でした。大した知識がある訳でもなかったのだけど子供ながらにあなたのすごさを知った僕は、あなたの事を学校新聞の記事にしました。ちょうどその頃僕は新聞委員会なんてのをやっていて、たまたま何か記事を書く事になった時に最初に思い出したのがあなたの事だったのです。その時はまだあなたもデビュー前で、あなたの事を簡単に紹介してちょっとした夢を文章にしただけのものでした。学校のことに何の関係もないと先生に怒られたりはしなかったけれど、かと言って特にみんなの関心を引いた訳でもありませんでした。それでも僕は、結構満足でした。
あなたがデビューしたのは、僕がちょうど中学校に上がった頃でした。残念ながら生中継も見ることは出来なくてニュースか何かでやっていた録画で見ただけだったけど、それでも今までの誰とも違うあなたの姿にびっくりした記憶があります。そう、あなたの姿は未来そのものでした。その次の年だったと思うんだけど、僕の住んでいた街であなたの事を紹介するイベントがありました。もちろん本当のあなたが来る訳ではなかったけれど、それでも僕は2回行ってしまいました。1回は家族で、もう1回はチケットの使い残しがあったらしくて友人を誘って。中学校の文化祭では、クラブであなたの活躍する姿をディオラマにしたりもしました。科学部って事でそれっぽい展示物を作ろうということになって、あなたの事をねたに何かやりたいと思った僕と工作ものを一つくらいは並べたかった友人の思惑が一致して…ってところです。他にもいろんなことをやらなければならなかったから大した出来じゃなかったと思うんだけど、評判は結構良かったような気がします。
そんな感じで僕はあなたの活躍が続くのを疑っていなかったのだけど、あなたの身近にいた人にはそうではなかったみたいでした。確かにあなた達の姉妹が日常的に活躍しているのが当たり前になっている、そんな状況には程遠かったけれど、姉妹四人でどんな夢でも背負っていく方向へ事は進んでいました。いや、本当のところは無理やりそんな方向に進めていたようです。そうやって無理を重ねてしばらく経った冬の日、お姉さんが亡くなったのでしたね。あれはちょうど、僕が高校の修学旅行を控えていた頃だった筈です。それからしばらくの間、あなたを初めとする姉妹みんなが姿を見せることがなくなりました。あなたのお姉さんが亡くなった理由と、それが避けられない事だったのかが分かるまでの間、僕には長い時間でした。きっと、あなたにとっても。
あなたはそれでも復活しました。亡くなったお姉さんの代わりを務める妹が加わった四姉妹の、名実ともに長女役として。更に、あなたはそれまでの倍も働けるようになりました。なんだかんだ言っても、あなたと妹達が世界中の誰よりも大きな夢を背負える存在であることに変わりはなかったのです。あなたのライバルになる筈の娘は、デビュー直後に引退する羽目になっていました。彼女が悪かった訳ではなくて、お金がなかったからだそうです。この頃世界は今思えばびっくりするほど変化しましたから、あるいはこのライバルがあなたに負けない活躍をするようになっていたら、あなたが逝ってしまう事もなかったかもしれません。結局あなた達姉妹のスケジュールは目一杯でも足りないくらいで、あなたの繊細な体に故障を招くようなこともあったのでしょう。何かある度に限界説がささやかれたりもしましたし、確かに負担が大きかったのは間違いないと思います。けれどもそれは決して限界などではなかった、僕はそう信じています。
あなたが逝ってしまってまだ数日、あなたが逝ってしまった事自体は悲しいし、残念でなりません。そして、今のところあなたが逝ってしまった本当の理由は良く分かっていません。あなたの代わりになる新しい妹はいないそうですから、残った三人の妹達であなたの分まで頑張らなければならないようです。それでもあなたの妹達はそれを当然のように受け止めるのでしょう。あなたと、お姉さんを見てきているのですから。妹達はしばらくの間休むことになるでしょう。あなたやお姉さんの二の舞にしてしまう訳にはいかないからです。けれども、いずれ復活することになる筈です。あなたが亡くなった事を理由に全てを止めてしまうのを望んでいない事は、彼女達が一番良く分かっている筈です。
今の僕に出来る事は、ほとんどないでしょう。それでも、これ以上あなたのような姿を見るのは嫌だからもう止めてくれとあなたの妹達に言うようなことはしません。出来るのならばあなたの妹達のライバルを育てなければなりません。単なるあなたの一ファンに出来ることと言ったら育てること自体は無理で、せいぜいその応援をするくらいでしかないでしょう。それならば、僕はそれをやっていきます。僕がすべき事はあなたの亡骸の前で泣く事ではなくて、あなたの亡骸を踏み越えてでも前に進む事でしょうから。
今はもういない、憧れだったあなたへ。