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Ｄｒ．Ｃａｒｌ　Ｓａｇａｎ

written in 25 Dec.1998

今を去る事１８年前、私は一人の科学者の存在を知りました。類まれな見識と表現力、そして人類愛―どうもこの言葉は軽く使われ過ぎてしまった感がありますが、他に適切な言葉を私は知りません―を持ったその人は、１９９６年１２月２０日に亡くなりました。６２歳と言う若さでした。

多くの人に知られているその人の業績の一つは「核の冬」を提唱した事でしょう。大規模核戦争が起きると吹き上げられたチリなどで地表に届く熱が減り、全地球的に低温化するという現象です。これを評価されて、その人は優れた新聞や文学、音楽にに贈られるピュリッツァー賞を受賞しました。この事からも、この人がただの科学者ではなく、広く深い見識と優れた文筆的な才能を持ち、、そして心から人類の将来を案じていた事が分かると思います。

その人が一般に知られたきっかけはむしろ、１８年前に放映されたＴＶ番組と１９９７年に劇場公開された映画の原作小説の方ではないかと思います。私の場合はＴＶ番組の方ですし、映画も悪くありませんが原作小説の方がさらに数倍は面白いと思います。ＴＶ番組には自ら案内役として出演していました。現在入手しやすいその人の著書の中には、その人が過去に演劇を志した事もあると言う事も書かれていて、ＴＶ番組でも表情のチェックなどの細かいところまで注意していたと言います。大きなレンタルビデオ店にはこの番組のビデオ（ただし英語音声、日本語字幕版）を置いている店もあります。あいにくうちの近所にはそういう店はないのですが…。ＬＤが発売されたら買うと常々言っているのですが、出ないだろうなぁ。こうなったらＤＶＤでもいいですし。映画の方はビデオもＬＤも売っていますし、レンタルビデオもある筈です。いろいろ不満はありますが、一見して損はないと思います。

その人の著書に「はるかな記憶―人間に刻まれた進化の歩み―」と言うのがあります。書名の通り生命の進化の歴史を扱った本です。基本的に天文学が専門のその人ですが、学生時代に生物学の先生に師事した事もあるので出発点の一つに立ち返ったとも言えます。そして、進化論から分子生物学―ＤＮＡやら何やらを扱う学問です―に至るプロセスがことごとく宗教―この場合はキリスト教―と対立してきたと言う構図は、地動説に端を発する現代の天文学に通じるものがあります。それは超科学とかニューエイジサイエンスなどと称する似非科学との闘いにも通じています。この本は１９９３年に書かれたものですが、最後の著作に出てくる思いの一端が既に現れているようにも感じます。いや、最初からあったのでしょうが、もっと控えめな表現であったように思います。

そして１９９４年、「惑星へ」が出ました。原題を"PALE BLUE DOT"と言います。訳者が原題では日本の読者にその人の言いたかった事がどれだけ通じるかと疑問に感じたので敢えて邦題をこのようにしたのだそうですが、"PALE"を直訳の「暗い」ではなく「小さな」にすれば…と言う気はします。原題はボイジャー１号が１９９０年２月に金星、木星、土星、天王星、海王星―水星は太陽に近すぎ、火星と冥王星は遠く、暗すぎて撮影できなかった―と共に撮影した地球の事を指しています。５９億ｋｍの彼方からは、地球は暗く、小さな青い点にしか見えないのです。この本ではまだ最後の著作ほどの思いは出てきませんが、裏返しとしての夢の話は出てきます。夢と言ってもその気になれば実現の可能性があるものです。もちろん、相当の困難は付きまといますが。

そして、１９９６年に出た最後の著作が"THE DEMON-HAUNTED WORLD -SCIENCE AS A CANDLE IN THE DARK-"です。邦題があまりと言えばあまりなのですが…。死を直前にしていたからか、思いがかなり強く出ています。この本は読者に科学の手法をもって民主主義的に、似非科学や非民主的なシステム―専制的な政治制度や高圧的な宗教など―と闘う事を教えているのだと私は思っています。解説の池内氏は「というより、科学と人類の未来のために、これだけは言っておかねば、と情況をリアルに見据えて負の面も大胆に書き込んだと見るべきなのだろう」と記していますし、訳者あとがきには「遺言」と言う言葉が出てきます。私が言葉を尽くすより一度この本を読んでみて頂ければ、その人の偉大さはもちろんの事、今私達が何をするべきなのかを理解して頂けると信じています。少々分厚く（約４４０ページ）、安くはない（本体￥２３００）本ですが、それだけの価値はあります。ちょっとした図書館ならば置いてあるのではないでしょうか？

その人…カール・セーガン博士は、もうこの世にはいません。しかし、その考えを分かりやすい形で私達に残してくれました。最後の著作は邦題を「カール・セーガン科学と悪霊を語る」と言います。１９９７年に公開された映画「コンタクト」の原作、１９８０年のＴＶシリーズ「ＣＯＳＭＯＳ」の原作共々、ぜひ読んで頂きたいと思います。

…Thank you,Dr.Sagan!