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大博打道中記5

written in 9 Feb.2000

Day -2 and -1:あるいは、VIP待遇

モスクワに着く前に軽い夕食という感じの機内食が出ていたから、日本時間で23時にもなろうかという割にはそれほど空腹感はなかった。シェルメティボ空港には実に快適な着陸で着いたのだが、そこからが問題だった。我々一行はここでトランジットするだけなので、宿泊するとは言えロシアには入国しない。だから入国審査というのはない代わりに半ば軟禁された状態でホテルに入る事になる。だからという訳ではないだろうが、ホテルに移動するまで何だかんだで2時間くらい待たされてしまった。普段の私ならかなりいらいらしただろうが、実は日本とハンガリーとの時差はちゃんと調べたがモスクワとの時差は調べていなかったおかげで「で、今何時？」という状態だったのであまり意識しなくて済んだのだ。ちなみに、ここの発券作業は手書きでやっていた（コンピュータは故障していたらしい）。

我々一行が泊まったホテル「HOTEL NOVOTEL SHEREMETYVO-2」は空港からバスでほんの5分ほどのところにある。一見してかなり高級なホテルである事が分かる。実際、西側の高級ホテルと比較しても遜色ないだけのものがある。それでも部屋に入るまでは何があるか分からない、と思った人も多かったようだ。建物の中に入ると早速チェックインなのだが、ここで我々は自分たちの立場を思い知らされる事になる。そう、パスポートをフロントに回収されてしまうのだ！早い話、仮にホテルを脱走したられっきとした犯罪者として扱われる事になる。部屋の割り当てなどの後―ここで私は予約名が「おさだ」になっていて自分が呼ばれた事に気付かないという失態をした―いよいよ各自の部屋に入る。画像のように、このホテルは上から見たらロの字型になっていて内側が巨大な吹き抜けになっている―ガラスらしい屋根付きだ―。一般の宿泊客は画像中央に見えているエレベーターを使うのだが、我々のような非入国トランジット客用のフロアは2階あたりにあって、一般客用と比べるとまるで貨物用に見える専用エレベーターで出入りするようになっている。画像は部屋の窓から写した筈なので監禁されているような雰囲気ではないが、廊下に出ると監視カメラが至るところにある。そして、夕食はいつになるか分からない、さらに翌日の朝もいつ出発になるか分からないというなかなかとんでもない状態になったのだった。

しばらくすると夕食という事になった。モスクワ時間で多分21時頃の話である。メニューはよく憶えていないと言うか、何だかよく分からないものがいろいろ出てきた、と言うのが正直なところである。ただでさえロシア料理には余り馴染みがないので訳が分からないのだが、思いっきりロシア風という訳でもなかったようである。私はご夫婦2組に囲まれる形で食べたが、スープに肉入りワンタンみたいなもの、洋風牛丼？といった感じだった―よく分からないせいか取っておいたメモも要領を得ないのだ―別にまずくはなかったが、私の周囲ではあまり好評とは言い難かった。デザートのケーキなどはかなりしつこい味だったので一番不評だったようだ。そして、なんだかよく分からない赤紫っぽい色の液体。デキャンター風のガラス瓶に入っていたそれを最初に飲んだのは、A-4コース最年長と思しきご夫婦連れのだんなさんだった―ちなみに、2番目は私だ―。飲んでみた感想は「薄めたかき氷シロップ」。あれほど甘くもないが、別においしくもなかった。この席で他愛もない雑談をしたのだが、先の最年長と思しきご夫婦連れの奥様の方がおっしゃった一言は結構受けた。「VIP待遇ってこんな感じかもしれませんね」、それが今回のサブタイトルである。

食後部屋に戻ろうとしていたら同じ飛行機でやってきた大柄な外国人数名がホテルの職員ともめていた。どうも、彼らはホテルでの食事が予約されていなくて何もないという事らしかった。確かに、あの機内食で翌朝まで過ごせというのは酷であろう。何せ、どうやってエコノミーのシートに入るんだと思うほど大柄な連中である。長い事見ていてもろくな事はないと思って部屋に戻ったので、その後どうなったかは不明である。

部屋では同室となったKさんとしばし会話した後風呂に入る事になった。この部屋だが、はっきり言って豪華である。ばかばかしい調度品がたくさんあるという訳ではなく、KONISHIKI氏でも余裕たっぷりのベッド―ほとんど正方形だ！―やきれいなバスルームなど、非常にゆとりのある作りなのだ。もちろんお湯が出ないとかトイレが詰まっているなんてことはなく、見た目に違うことなく一流の設備が用意されていた。何せ、電気髭剃り機用の115V/230V両用のコンセントまであったくらいである。まあ、強いて言えば石けんが何だか洗濯用っぽい感じがしたとか、豪華なTVだがやっている番組が訳が分からないので面白くないとか、その程度である。Kさんとはちょこちょこ話もしたのだが、翌日何時に起こされるか分からないという事で早めに寝る事にした。

翌朝、モスクワ時間の6時にモーニングコールが鳴った。30分後に朝食、さらに30分ほどでチェックアウトというスケジュールである。普段なら起きるだけで30分かかる私だが、こういう時は割と早く動き出せるらしい。Kさん共々6:25くらいには準備を終え、朝食に向かった。朝食のメニューはパンが3種類―普通の奴にらい麦パン（だと思う）、パウンドケーキみたいな甘い奴―にコーヒー、紅茶、オレンジジュースといったところである。蛋白質っぽいものはなかったような気がする―メモには「もう1品ありそうでなし」と書いている―。パウンドケーキらしき物も「朝から甘いものなんて…」と言う向きには不評だったようだが、評価が一番分かれたのはらい麦パンである。同席した方のうち、一人は「何か癖になりそう」とおっしゃっていたし、「もういい」とおっしゃる方もいた。確かに独特の酸っぱい味は好みが別れるところであろう。ちなみに私は「バターを付けたら結構いける」と思った。あまり朝食をたくさん食べる方でない私だが、この日は3種類のパン、飲み物3種類を全部味わったように記憶している。何せ卵かハムか、その手のものが運ばれてくると思っていたら来ないので、あわててパンを余計に食べたのだ。だからコーヒーが足りなくて紅茶もとか、サラダも出てこないからビタミンがとか言ってオレンジジュースを飲んだのだ。決して欲張った訳ではない。

7:00過ぎにはチェックアウトを済ませて空港に向かった。私が見る限り、誰も時差ボケでくたばっているという様子はなかった。西に向かうのは時差ぼけになりにくいらしいし、私などは週末の生活パターン―金曜の夜に夜更かしして土曜の昼まで寝る―と同じなのでボケようがない。出発は9:25という事になっているので少なくとも1時間は暇な筈だが、だったら朝くらいゆっくりさせてよと言えないところが海外の辛いところである。