written in 19 May 1999
思い起こせば、事の起こりは１９９８年１月下旬に溯る。和歌山の子会社に出向して１年半程経った頃、上司から呼び出されて質問されたのだ。
「Ｍｎ（注：もちろん実際には本名である―以下同じ）、大阪に戻れと言ったら戻るか？」
と。この場合、和歌山にいたいと言えば自動的に子会社への転籍を選択する事になる。そこまでの覚悟がなかった私は、
「はあ…、自分を必要だと言われれば戻りますが。」
と答えておいた。
そして２月中旬になって、大阪の工場に戻る事になるだろうという話を聞かされた。しかし時期は未定。とりあえず私は住むところを探す事から始める事にした。賃貸住宅情報誌を買いに時々大阪まで行っていたのだが、インターネットでも探せる事に気づいたので３月になると主にインターネットで探す事にしていた。しかし、なかなか話は進まない。そして３月中旬になって
「Ｍｎ、大阪行きはなくなった。」
という事になってしまった。その後さらに子会社の中で異動先が二転三転したのだが、その話は置いておく。
そして１９９９年３月中旬の事である。私は偉いさんに呼び出されて話を聞く事になったのだ。
「Ｍｎ君、連休明けから大阪に戻ってもらう事になったから。まあ、あと１ヶ月半もあるし。」
内心、私は左手で頭を抱えながら右手を前に突き出し、中指を立てていた。…１ヶ月半も、だとぉ？冗談ではない。住むところを確保し、荷物を運んで、あちこちへの手続きを一人でするのに１ヶ月半はかなり厳しい条件だ。特にこの異動シーズンに住むところを確保するのはかなりの難題だ。予算無制限とか雨露しのげさえすればいいとか休みを必要なだけくれるというならまだいい。現実問題として予算は多くない―住宅手当なんぞスズメの涙―し、通勤手段や部屋の条件だって何でもいいという訳にはいかない。おまけに、有給休暇―残り日数だけはたくさんある―をおいそれとは取れないのだ。事は急を要するし、条件は良くない。おまけに昨年のように土壇場でどんでん返しなんて心配もしなければならない。
「ええい、キャンセルになったら全部会社にさせてやる！」
と決心して、私は行動に移る事にした。
とにかく、まずは住むところの確保である。呼び出しのすぐ後の土日に大阪まで行ってきて賃貸住宅情報誌を買ってきた。インターネットでいきなり探してもよかったのだが、間取り図などが全ての物件に付いていなくて必ずしも満足と言えるものでなかった事がその理由だ（雑誌なら今や間取り図が付くのが普通）。これで家賃の相場などを調べて、いよいよその翌週に不動産屋巡りをする事にした。ここでインターネットで条件を設定して検索した物件の中から良さそうなものに問い合わせメールを出しておいた。
不動産屋に行った日は雨だった。問い合わせしておいた不動産屋に行ってみたところ、問い合わせた物件は女性専用と言う事で別の物件を、と言う事になった。
「連絡が行ってませんでしたかねぇ？」
と言われたが、連絡があればすぐに別の物件を探している。とは言え、せっかく来たのだからと言う事で条件の合いそうな物件をいくつかピックアップしてもらった。まずは予算が最優先、次に立地、部屋の状態というのが私の条件だ。駐車場の予算込みでン万円と言う予算から、不動産屋さんはいくつかピックアップしていた―地域的な問題もあってかなり厳しかったようである―。そこへ、外回りから帰ってきたらしい別の営業の人が私の担当の営業の人に耳打ちした。
「Ｍｎさん、実は今月末で空く部屋でちょうど良さそうなのがあるんですが、ご覧になります？まだ住んでらっしゃるので同じ建物の別の部屋を見て頂く事になるんですが。」
断る理由はなかったのでその部屋を含めて３部屋見せてもらう事になった。
最初の部屋は通勤にはやや遠い場所だった―ちなみに、徒歩通勤が場所の条件である―。部屋そのものはまあまあと言う感じだったが、とりあえず保留というところだ。次の部屋は距離的にはまあまあだが、なんだかやたらと天井が低いのだ。私が手を伸ばすと天井に手が届きそうなくらいだ―私は少なくとも大男ではない―。圧迫感の強さと、採光こそ十分なものの北向きという点もネックと感じたので、実質的にパスというところだ。そして最後の部屋。なんと、３部屋の中で一番家賃が安いのだが一番広く見えた。何とロフトまで付いている―まあ、おまけ程度だが―。広さもまあ必要充分というところだし、通勤にも時間が短くて済む。実際に入居する事になる部屋が見られないのは若干不安だったが、この最後の部屋を借りる事にした。他の不動産屋もあたりたいのは山々だが、２番目の部屋など別の不動産屋御一行様に出くわして営業の人がライバル意識むき出し？状態になるような状態だったのであきらめる事にした。
後日敷金・礼金などを振り込んで―大阪では保証金というのが一般的だが、私の借りた部屋は敷金・礼金方式だった―部屋の確保は終わった。先住人が引っ越したらリフォームするとの事とだったので、入居は４月中旬以降になる。その間にいろいろやるべき事はある。しかし、私は何から手を付けるかというところで頭を抱えていた。