written in 2 Aug.1999
先日、友人と話した時に「アイコムが文芸春秋に出ていた」と聞かされました。正確には社名が出ていただけの話ですが、その出ていた記事というのが北朝鮮の潜水艦で見つかった日本製機器のリストなのです。
この５月くらいから、アイコムはアメリカ国防総省と無線機の納入契約を結んだ事を宣伝しています。性能や品質が認められたという事でしょうから宣伝するのはまあ当然と言えるでしょうが、煽り文句が「米国国防総省が選んだアイコム」ってのはなんか言い過ぎって気がしなくもありません。
で、先日帰省して友人と会った時にその記事を確認したのですが、それを見て私はふと思い付いた事がありました。
「北鮮国軍が選んだアイコム」
あまりにブラックなので大ウケしたくてもできないですよねぇ。あくまでも、冗談ですからね。
真面目な話をしますと、潜水艦に使われていた無線機というのはアイコムが海外向けに出している廉価版のHF（短波帯）機で、昔国内向けに売っていた「IC-721/723」と同系統の「IC-725」と言う機種です。これにアンテナチューナー「AH-3」を組み合わせて使っていたようです。潜水艦ともなるとアンテナをいい条件で設置する事は困難ですし、同国の経済事情を考えると高価な機種は使えないでしょうし、まあそんな必要もないでしょう。となると、「IC-725」と「AH-3」という組み合わせは、容易に安く買えて、アンテナチューナーが簡単に使えるちょうどいい組み合わせであったのだろうと推測できます。アマチュア無線機なんて禁止している国に持ち込むのは困難でも、日本から持ち出すのは別に難しいものではありません。同社が積極的に輸出したというなら誉められたものではないでしょうが、東南アジアや中国に普通に輸出しているうちの何台かが北朝鮮に流れてもそれを止めるのは事実上不可能だと考えられます。アマチュア無線機なんて、そんなハイテク機器という訳でもないですしね―と言って、一から作るのはそれなりに難しい―。
アマチュア無線機の業務使用というのは、日本国内では違法行為ですが、海外においてはその国によります。中国や東南アジアあたりではシビアな用途はともかくとしてもそこらの連絡用にはアマチュア機がよく使われているようです。そもそもメーカーがアマチュア用に売っているのを他国で業務に転用しているというよりは、メーカーがアマチュア規格―つまり、シビアな使い方を前提とした設計ではない―で作った機械を他国で業務向けに売っている―買う方も当然そのつもり―というのが実態みたいです。VHF（超短波帯）やUHF（極超短波帯）ならば通常の条件ではそんなに遠くに届きませんから、ある国でアマチュアバンドを業務向けに使ったところで別の国で問題になる事は少ないのです―もちろん、国同士が近い場合はこの限りではない―。無線機の方も、アマチュアバンドで使う事を前提に設計してある物をアマチュアバンド外では使えないかというとそんなことはなく、性能がある程度落ちる事を許容するならそれなりに使えてしまうのです。たくさん売れるなら、メーカーだってアマチュア機をベースに業務使用を前提とした仕様変更をしてもいい訳です―採算が取れるなら別機種にしてしまっても良い―。そもそも、アマチュア無線という制度はあってもアマチュアとして運用するのは外国人とごく一部の国民だけなんて国は珍しくないのですし、ひどいのになると観光でやってきた外国人―アマチュア無線をする訳ではない―に免許（コールサイン）を売りつけるなんて国も昔はあったそうです―今はどうだか知らないけど？―。電波をどう使うかは国際的な大枠はありますが基本的には各国に裁量権があるのですし、アマチュアバンドをアマチュアバンドとして使えない、使う意味がない国で他の用途に使う事に我々が文句を言う事はできないのです。HFだと影響が世界中に出るので困りますけどね。