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written in 15 Jan.2000
modified in 15 Dec.2001
唐突だが話は出発直前に飛ぶ。8月6日に仕事が終わると、私は一目散に帰宅した。レンタルのスーツケースが宅配されることになっていたのだ。夜間配達を指定していたとは言え、来てもらったときにいなくて翌日配達なんて事になると厄介である。心配しながら帰宅したが、結局指定の18時〜20時の枠を少し過ぎるくらいの頃に配達されてきた。「こんな事なら晩飯買ってから帰るんだった」と思っても仕方ない。届いたスーツケースを点検しつつ、今更ながらに持っていくものの用意を始めたのだった。
翌日の土曜日は、最後の最後に必要だと思ったものの買い出しに始まった。お茶やコーヒーくらい飲みたいよなと思ってカップに直接入れるタイプの電気ヒーターとか、やはり長時間日差しの下にいる事になるからと思って帽子とか、前の月に起こったハイジャック事件の影響で荷物のX線検査が厳しくなっているという話もあったなとフィルムのX線防止袋とか、まあ細々としたものが中心である。暑さでへろへろになりつつ、帰宅してからも翌日に備えて呼べそうなタクシー会社のピックアップとか、飛行機の中はかなり乾燥するらしいと聞いて夕食の買い出しと一緒に飲み物とかちょっとした食べ物なども買っておいた。そして荷造りである。スーツケースは撮影機材の事も考えて6日間の日程に比べると大き目のものを選んだのだが、それでも余裕はなかった。欲張るときりがないし、あまり重くなるととんでもない事になる。そう言いつつインターネットを覗いてみると「ビデオカメラは1台のみ」なんて文字が見えたのだ。予備機を含めて2台持っていくつもりだったのだが、入国審査で引っかかって日食が見られなかったとなればえらいことである。「故障するなら古い方だろう」と思って、泣く泣く？1台に絞ったのだった。そして、持っていくかどうか悩んだものの一つにはスーツもあった。今回のツアーでは1日だけ夕食の付かない日があった。一人で食べに行く事もないだろうが、ドレスコードのあるような店しか選択の余地がないなんて事になったら困るかもしれない。多分着ないだろうと思いつつもこれは持っていく事にした。ごたごたしていたら寝るのが2時になってしまった。
普段は寝起きの悪い私だが、出発当日の8月8日は6時過ぎに目覚めてしまった。「我が家は暑い」にも書いたように、夏の我が家はいろいろ条件が揃っていて暑いからという理由もあるのだろうが、やはりちょっと興奮していたという面はあるだろう。本当は9時くらいまで寝ているつもりだったのだが…。ツアーは8月9日〜16日だが、成田空港に10時に着こうと思ったら当日出発ではまず無理なので成田のホテルに前日から泊まるプランを申し込んでおいたのだ―オプショナルツアー扱いになっている―。昼過ぎの新幹線で行けば夕方には成田に着くだろうといういい加減なスケジュールから逆算して11時頃出ればいいやと思ったのが間違いだったかもしれない。
まず、ふと思い付いて近所のコンビニエンスストアにパスポートのコピーを取りに行った。これと予備の写真を持っておくと再発行が比較的早く出来ると聞いての事である。ついでに駅までの道路が平坦である事を確認した。そして、「これならスーツケースがあっても十分運べる」と判断した。わざわざタクシーを呼ぶのは面倒だったのだ。しかし、11時前になってさて出発と思ったときに早くももくろみが甘かった事が露呈してしまった。その時初めて持ち上げたスーツケースは想像をはるかに上回る重さだったのだ！私の予想では10kgくらいになると思っていたのだが、持ってみると12〜13kgはありそうである。今からタクシーを呼んでも仕方ないというか間に合いそうもないのでえっちらおっちらとスーツケースを抱えて階段を下りたが、道に出た途端またまた甘さが露呈した。確かに歩く分には十分平坦だが、スーツケースの小さなキャスターにはオフロードと言ってもいい路面なのだ。普通に歩けば約10分の最寄り駅まで行く間に、早くも30度を超えたと思われる気温と直射日光は容赦なく私を焼くのだった。着いた頃には汗だくで早くもばててしまっていた。駅に着いたら着いたで高架式の駅舎に登るだけで息が切れる。こうなると階段を下りるのだって重労働である。新大阪で新幹線に乗り換えるまでに2回乗り換えるのだが、その度に同じような事をしていたので新幹線に乗る頃にはくたくたになっていた。
新大阪を出発したのは12:40。当然東京行きの「ひかり」である。15:42に到着するまで何をしたのかさっぱり憶えていないが、大きくて重いスーツケースの処遇に困ったのは言うまでもない。東京駅で重い荷物を引きずってしばし迷った後、予定通り16:10の快速「エアポート成田」に乗った。どうでもいいが、どうも関東圏の案内表示はいつ来ても分かり難くて困る。案内表示通りに動いている筈なのに行こうとしているところから離れてしまうのは困りものである。さて、この「エアポート成田」という快速だが、要するに「全席ロングシート化改造された113系」（結構古い型の電車だ）なのである―グリーン車もあったが―。関西に住んでいると空港行きの快速には最新型車両―もう5年経ったけど―が使われているので、何だかその差に愕然としてしまう。おまけに佐倉で6分、成田で7分と続けて長時間停車するのにはびっくりした。特急との待ち合わせもあってこうなるというのは判るのだが…。おかげで1時間くらいで着くのだろうと思っていたのが1時間半もかかってまたまたびっくりしてしまった。もっとも、新幹線も成田空港行きの快速もちゃんと発車時刻を調べておきながらこんな事を言っている私も相当変ではある―調べたんなら普通到着時刻も憶えてるよなぁ―。今回泊まるホテルの最寄り駅である空港第2ビル駅に着いたのは定刻通りの17:42だった。
さて、ホテルの送迎バスに乗る為にバス乗り場を探そうと改札を抜けたその時に、検問に引っ掛かった。もちろん私だけ引っかかった訳ではない。前述したようにハイジャック事件から時も経っていない頃だったせいかいちいち空港に入るのにチェックが入っていたのだ。ここで係官の人はこう言った。「パスポートを見せて下さい。」その言葉に私は思いっきり慌ててしまった。もちろんパスポートは忘れず持ってきたのだが、スーツケースの一番奥に入っていたのだ。引っ張り出すには荷物をほぼ全部開ける羽目になる。狼狽していた様子を悟ったのか、係官の人は「免許証でもいいです」と言ってくれた。幸いこちらはすぐ出せるところに入っているので事無きを得たが、かなりヒヤヒヤしてしまった。そして、またもや案内表示に悩まされた。要するに、バス乗り場に行きたいのに案内表示を見てもそれがどこにあるのか分からないのだ。結局ここでも15分くらい迷ってしまった。もっとも、予定はそれも織り込んであるのだが…。ホテルの送迎バスで今晩の宿「ホテル成田東急」に着いたのは18:30頃である。
チェックインして部屋に入ってすぐに私がした事は、持ってきたビデオカメラのバッテリーの充電であった。充電器は海外の電源電圧にも対応できる仕様だったし、コンセントの変換プラグもちゃんと持ってきたのだが、何はともあれ日本みたいに電源事情がいいとは限らない。電源事情が良ければ停電がない訳ではない。今回のツアーは一人で参加したから誰かと相部屋になるのは確実である。その同室の人の機材の充電でコンセントが足りなくなる事だって有り得る。となれば、充電できるときにしておくのが望ましいだろう。だいたい、今回持っていったバッテリーは大小2つだが大きい方などフル充電に4時間かかるのだ。…などとごたごたやっているうちに20時過ぎたので食事をする事にした。疲れのせいか食欲がもう一つだったのでカレーライスセット（サラダ、コーヒー付き）で済ませたが、さすがにホテルのレストランなのでこれでも結構なお値段である。部屋に戻ろうとしたときに腕時計のバンドを押さえる輪が切れてしまった事に気付いた。放っておくとすぐに外れてしまうので困るのだが、ホテルの玄関のところに売店があったのを思い出してダメ元で行ってみると瞬間接着剤があるではないか。これ幸いとついでにお菓子など買い込んで部屋に戻った。
後はもう、翌日に備えて出国したら使わないものをスーツケースの奥に放り込み、パスポートなど使うものを取り出した。今回の私の荷物はスーツケース1個にショルダーバッグ1個、ウェストバッグ1個に分散していた。パスポートや小物類が入っているウェストバッグはスーツケースの中に入れていたので取り出し、ショルダーバッグにビデオカメラを移して出国体制は万全というところだ。もちろん、普段ショルダーバッグに入れて持ち歩いているカッターナイフ―文房具の一つとしてよく使う―はスーツケースに移した。そのままだと出国時にあらぬ疑いをかけられる可能性が高いのは言うまでもない。
腕時計のアラームにホテルの自動モーニングコール、備え付けの目覚し時計を全てセットして眠りに就いたのは0時を回った頃である。普段よりは早めだが翌日の事を考えたらよく寝ておくにこした事はない。何せ翌日は私の人生で初めての事が立て続けに起こる事になっているのだ…。
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