written in 3 Dec.1998
最近話題になっている自動車のアイドリングを止める事について私の考えを書いてみようと思います。タイトルの通り、止める事をお勧めするのですが…。と言っても、ここでは信号待ちのようなごく短時間の場合に関しては触れない事にします。
駐車中の自動車のエンジンをアイドリング状態にしたままにしているのは、「面倒」「エアコン・電装品を使っているから」と言うのが主な理由だと思います。その辺でも、バスは発車までエンジンをかけてない事が多いのですが、タクシーはまずアイドリング状態で客待ちしています。先日流星群を見に行った時にも明かりを点けてヒーターを効かせながら車で待っていた人が多かった―アイドリングしてない車の方が少なかった―ですし、うちのあたりは田舎のせいか買い物をしている間にもエンジンがかかったままの車―誰も乗っていない事さえある―を見かける事は珍しくありません。
で、アイドリングを今でもしている人は恐らく燃費だの環境だのと言っても「そんなの自分には関係ない」と言い返されるでしょうし、騒音を持ち出しても同じ事でしょう。防犯を持ち出したら「盗む奴が悪い」、安全（突然動き出したりするなど）を持ち出せば「動く車が欠陥品じゃないか！」で終わってしまうでしょう、恐らく。と言う事で、私はこういう面からは説得をしない事にします。
実は、自動車と言うものはアイドリング状態では大した電力を作れないようになっています。アイドリング中には電装品をいろいろ使いながらバッテリーを充電できるほどの電力を発電できないのです。もちろん、技術的にはアイドリング状態で十分な発電量を確保できるようにする事は可能です（発電機を容量の大きなものにしてアイドリング回転数を上げるだけですから）。しかし、走行中には発電量が多すぎて無駄になるからそうできないのです。アイドリング状態でやたらと電気を使う事は間違いなくバッテリーに負担をかけて寿命を短くします。そのつけを払うのは、もちろんやっている本人と言う事になります。
他にもあります。上に書いたことと一部重なりますが、自動車はそもそも長時間のアイドリングをするようには作られていないのです。当たり前と言えば当たり前なんですが、自動車は走行状態を前提に設計されています。ある程度の余裕を見込んではいますが、通常走行状態から外れるといろいろと不具合が出てしまうのです。極端な例ですが、長時間アイドリングしかしてないような状態にするとエンジンは故障します。これ、本当です。
私が以前乗っていた車はもともと親が買ったものでした。一時期この車を運転出来る人がいなくなり、バッテリーの充電を助ける為に週１回くらいアイドリングだけしていた事があります。その結果…見事にエンジンが故障しました。４気筒エンジンが３気筒になってしまったのです。具体的には、１気筒の排気バルブにカーボンが溜まってシリンダーヘッドにくっついて固まってしまいました。幸か不幸かうちの車は当時既に時代遅れのＯＨＶエンジンで、バルブを動かすプッシュロッドが曲がっただけで済みましたが、ＯＨＣエンジン―現行車種のガソリンエンジンのほぼすべて―だったらシリンダーヘッド周りをいろいろと壊してしまう可能性が高いでしょう。当然修理費用も相当かかります。相当極端な例ですが、こういうリスクがあると言う事は事実です。修理の時に担当の人に話を聞いたら、エンジンはある程度の負荷をかけないと各部が想定された温度にならず、負荷が軽いと温度が上がらないのでカーボンが溜り、負荷が重過ぎると温度が上がり過ぎて溶けると言う事になるそうです。
そして、排ガスの問題があります。自動車の排ガスが自殺に使えるくらい毒性が高い事は皆様ご存知の事と思います。もちろん自殺をしようと言うのでなければ好き好んで吸おうと言う人はいないと思います。しかし、アイドリング状態で車に乗っているのはそれをやろうとしているのに等しいものがあるのです。先程も書きましたが、自動車と言うものは基本的に走行状態を前提に作られています。排ガスの処理にしても同じ事で、通常考えうる渋滞程度なら車の周囲に排ガスが命に危険を及ぼす程溜まらないように考えられていますが、アイドリング状態でエアコンを動かしながら長時間駐車して車内で仮眠を取ると言う状態は想定されていない可能性が高いです。風の流れがあればまず危険はない筈ですが、ちょっとした不運の積み重ねで「駐車中の車内でガス中毒死」なんて見出しをつけられて新聞に載ってしまう危険は十分にあります。毎年１件や２件はそんな記事が実際に載っています。自分がアイドリングして自分が死ぬならまだしも、周囲の誰かが死ぬなんて事になった場合、自分は責任を問われないと言い切れる人はいるでしょうか？そう言えば、某新聞がアイドリングをしながらエアコンを動かしていた車内でガス中毒事故があった時にその原因が排気管の腐食にあったと言う事で「欠陥車キャンペーン」をやろうとしましたが、腐食で穴が開いた事より排ガスが溜まるような状態で車を使っていた方が問題だと言う事で世間の賛同が得られずにつぶれてしまった事がありました。某新聞は庶民の味方らしいですけど、某新聞が思っているより庶民の方が賢いみたいですね。
私は自動車メーカーの技術者でも何でもないので、実際の設計基準や作業について知っている訳ではありません（メーカーの技術者だとしたら守秘義務が絡むでしょうからおちおち書く訳にも行かないでしょうが）。しかし、毎年少なからぬ人が排ガスで死んでしまっているのも、エンジン本体やバッテリーなどにダメージを与えてしまうのも、騒音などで迷惑をかけるのも、暴走事故の危険性があるのも、盗難の危険性があるのも、無駄な燃料を使っているのも事実です。私に「アイドリングを止めろ！」と命令する権限はもちろんありませんが、止めた方がいいとお願いはします。皆様の車の使い方を再考するきっかけになれば幸いです。